【new】祖師谷大蔵/「三年鳴かず飛ばず」小屋2
100年先を見据えた小さな小屋の大きな暮らし – 現代の結で完成させた、畑に建つ小屋型賃貸住宅 –
東京都世田谷区大蔵地区。都市計画道路により土地が二つに分断されることになった場を、かつて“まちの人が自然と集う場所”だった記憶を未来につなぐ暮らしの場として、「三年鳴かず飛ばず」プロジェクトがスタートしました。緑と農地が残る世田谷区の国分寺崖線近隣で、田畑が消失し画一化する昨今、生産緑地を守りながら賃貸住宅群を建設する、集落のような暮らしの場づくりです。
ここでは、断熱などの建築性能を備えた上で、住み手自らが風や光を感じながら環境を調節できる暮らしを計画、住民らと1年半・全9回のワークショップを経て伝統的構法による小屋型賃貸住宅を完成させました。数百名の方が関わり、自然とのつながりを身体で感じた参加型の建設プロセスは、地縁を超えた新たな関係性を生み出し、「現代の結」のプロトタイプともいえる取り組みとなりました。
2023年夏に竣工した、住宅とコミュニティスペースからなる「マザーハウス」と、小さな賃貸住宅「小屋」、2025年夏に3世帯賃貸住宅「長屋」が竣工し、続いて2026年夏に小屋型賃貸住宅「小屋2」が竣工しました。
三年鳴かず飛ばずプロジェクト 全体
三年鳴かず飛ばずプロジェクト マザーハウス・小屋
三年鳴かず飛ばずプロジェク 長屋棟「巡る」
「機能的な環境主義」から「生命的な環境主義」へ
建築の性能はもちろん大事ですが、性能を追求し外の世界から切り離された「閉じた箱」ではなく、季節の移ろいや風の匂い、太陽の動きといった生命の源泉を基盤にしながら、環境や地域に対して建築をどのように閉じ、ときに開きつながるのか。数値化できない全体性の中で、「環境」を多面的に解きながら、住人と環境を結びなおすような建築を目指しました。
この土地の環境によって自ずと「できた」小屋型賃貸住宅
土地の記憶の継承や100年後の風景、子供が育つ場を見据え、持続的な経営方法まで含めて7年間大家に伴走し場づくりを形にしてきました。日々成長するコミュニティや生態系、天候、近隣住民の声など、着工後も変化し続ける外的環境を受け止め、その都度対話を重ねて計画を柔軟に更新。。建築家が自律的に「つくった」のではなく、この土地の環境によって自ずと「できた」建築です。
シェアを前提にした小さな建築での大きな暮らし
「これからの人口減少社会に負債となる大きな建築はつくらない」「これからの都市こそ生産緑地の価値が高まるのでは」という見解のもと、畑を残し将来の撤退や復元が容易な状態を維持しながら、平屋の小屋型賃貸住宅郡を計画。対面に建つ長屋型集合住宅の一層目に共用キッチンや共用風呂を設け、暮らしのシェアを前提とすることで小屋の機能を最小化。小さくつくることは相互扶助を育む暮らし方の再編にもつながります。
農がある暮らしが人と自然を結び直す
キッチンから直結した菜園は、日々の食卓を支えるインフラであり、自分が食べるものを自分の手で生み出す感覚や、土に触れる習慣を日々のルーティンの中に組み込むことは、自然を身体化し、人と環境の関係を結び直していく。各住戸と畑の関係性を丁寧に読み解き、デッキや土間、アウトドアキッチンといった農作業を支える中間領域を多数設計した。
point.1 建築と設備の分離
住宅と水回りの更新サイクルの違いに対応するため、居住ユニットと設備ユニットを独立させ組み合わせる構法としました。居住ユニットは竹小舞・土壁・木組みの伝統的構法で丈夫に、設備ユニットは安価な流通材で簡易的に組み上げました。


point.2 地産の自然素材を使った呼吸する家
木・竹・土・稲わら床畳・瓦を用いることで、自然素材が持つ優れた蓄熱・調湿作用を最大限に活かし、機械設備に頼りすぎない室内環境を形成。木材は埼玉県飯能、竹は近くの民家の裏庭など近隣から素材を調達し、職人も近隣の方に依頼することで、地域の森林整備に貢献しながら、輸送にともなう環境負荷の低減を図りました。



point.3 カモミール残渣を再利用した断熱
ハーブ製品のエキス抽出後に残るカモミール残渣を断熱材として再利用できないか、大学の研究室と協働して断熱性能や沈下リスクと密度のバランスを検証し、性能を担保した上で床・壁・天井それぞれに施工。茎のストロー状の空気層による断熱性に加え、その大きな熱容量が夏の日中の熱侵入を遅らせます。
point.4 日々、自然を体感し利用できる仕組み
風や太陽光などの自然の力を取り込みながら、季節の変化を感じられる心地よい暮らしを目指しました。深い庇を設け、夏は日射を遮り冬は日射を取得する開口部、さらに敷地特性を読み解き、全方位に風が抜ける通風経路を確保。屋根の上部に設けた高窓は、夜間に室内の暖気を逃がすナイトパージとして機能します。外構には再生ドラム缶を利用した雨水タンクを2基設置。極力敷地内で循環させる工夫です。

point.5 大地を汚さない、撤退できる建築
将来的に畑に戻すこともできるよう、土中環境や建物の解体性にも配慮した。軟弱地盤のため、RC布基礎を地中で回して束を立てる構法を採用。石場建てと同様に浮床にすることで、土中の空気や水の流れを遮断せずに生態系を守りながら、床下に敷設した設備配管のメンテナンスのしやすさと、湿気対策を実現しました。

point.6 微気象を形成する外構計画
アプローチの地中には約40cmの砕石層を設け、浸透トレンチとして敷地全体で雨水を蓄え、敷地外への流出を抑制しながら土中へゆっくりと還元・循環させる仕組みです。保水された大地は微気象を形成して地表面の放射熱を抑え、夏には涼風を生み出します。敷地の段差部には落ち葉と剪定枝による「しがら」を築き、植物の力で保水と土留めを両立させ生態系の回復を目指します。敷地全体のデザインを通じて、自然のサイクルをパッシブな環境制御システムとして機能させています。
point.7 数百名が参加した1年半に及ぶ「現代の結」の家づくり
この小屋型賃貸住宅は、約1年半・全9回のワークショップ「住みかをつくる」を通じて完成しました。木・竹・土・石・水といった身近な自然素材を用い、伝統的構法による家づくりを体験することで、ブラックボックス化した住宅の構造を紐解き、自然の身体性を取り戻す取り組みです。かつての日本の民家は、身近な素材と地域住民が助け合う「結(ゆい)」によってつくられ、その営みそのものが豊かな風景を形作ってきました。本プロジェクトでは、専門家から地域住民まで数百名の参加者が交ざり合い、いわば「現代の結」ともいえるでしょう。
