建物をコミュニティにひらく
シェアする暮らし
現代は「閉じた」住環境が多くなってしまいました。そうしたなか、隣人関係までが希薄になり、漠然とした不安感のなかで暮らしている人が多いのではないでしょうか。新たな人間関係づくりが模索されている時代です。
かつて社会を支えていたのは地縁や血縁関係のような構造でした。しかしながら、そうした濃い関係には現代では現実的にはなかなか戻ることはできないでしょう。
住まいと環境が繋がることで、低エネルギーで環境負荷の少ない住環境を実現しよう、と私たちは提案していますが、建物を開き、外部とつながる、ということは同時に隣人とのコミュニケーションの可能性を生みます。
縁側などの仕掛けは、温熱環境のバッファーゾーンだったり、住まい手が働く場だったりしましたが、同時に来客が気軽に寄れる応接の場でもあります。建物が外部に対して開いていたのです。また、集住して暮らす仕組みのなかで、かつて日本には「長屋」といわれるものが多くありました。暮らす家族の個別の空間はあまり広くありませんが、一歩外に出ると路地があり、井戸端会議の場があり、人と人との関係を育む空間には事欠きませんでした。現代のマンションのような集合住宅はたくさんの人が近くに暮らしていますが、堅牢な個別の住空間のなかで、隣人との関係性はほとんどないように見えます。
集まって暮らす、ということをもう一度捉え直して、戸建てでも集合住宅でもその住空間のなかに、隣人との関係性を豊かにする仕掛けと空間を用意したいと考えています。
人と人とのつながり
お互いさまの関係づくり
木の家には部材全体で家を支える「総持ち」という言葉があります。生態系も、お互いもらったり与えたりという関係のなかで成立しています。住まい手同士の関係もそうあったらいいなと思います。
「集まって住む」ということにはいろいろな課題もたくさんあります。ときにはトラブルもあるでしょう。しかし世の中は、木組みの家、生態系同様に「お互い様」で成り立っていて、良い時も悪い時も寛容さを前提にお付き合いしていける関係性を育むのがよいと思います。
あるときは助け合い、またあるときは自分の時間も大事にする、という多様で中庸な住まい方の提案が必要とされています。
エコロジカルな建築は技術のコピーで手に入りますが、隣人や地域との関係はコピー出来ません。関係性を少しずつ育んでいける、そんな住環境づくりがよいと考えます。
人と環境・自然がつながる、人と人がつながることで豊かさと安心は相乗的に効果が生まれてきます。物理的、精神的な豊かさを皆でシェアすることができれば、安心感のある住環境を実現できるだけでなく、結果的に環境への負荷をも減らすことができるのではないか、とも思います。
環境とコミュニティの二つの大きなテーマを、建築のしかけとして解決することを探ることで、相乗効果が期待できると考えています。
※事例
いるかビレッジ(カフェ・農園/デイケアサービス/コモンハウス)
神山町集合住宅
里山長屋
okatte西荻